【時】斬九郎への弔辞(御家人斬九郎最終回スピンオフ)

カテゴリ【時】:時代劇の話
~時代劇の感想、雑感、ニュースを書いて行きます。



上賀茂神社神事橋_H18.02.18
上賀茂神社神事橋 H18.02.18撮影

旦那、とうとう本当に死んじまったんですかい。信じられねえな。でもさ、お互いこんだけ長生きできたんだから十分じゃございませんか。御一新の後、明治の御世はあっという間に過ぎて、大正とかいう時代まで生きれたんですから。俺も直に旦那のところへ参りますよ。ハイ。

でもね、随分昔の話になりますが、覚えてますかね。忘れるわけありませんか、あんなこと。俺はね、旦那、あのことは昨日のことのように思い出すんですよ。あの時、旦那は本当にもうダメだと思いました。旦那、天正寺に向かう道すがら、最後に東八の前、通りなすった。俺はまだ小さかった八重を抱きしめて、死にに行く旦那の後姿を断腸の思いで見送ったんでさ。あの時ほどお侍を馬鹿だと思ったことはなかったね。そしてどれだけ座ったまま八重を抱きしめてたんだろ、九つの鐘が鳴る頃、とうとう矢も楯もたまらなくなって、雪ん中を天正寺まで駈けてった。俺が着いた時には、下河原藩の侍の死体の山と座ったまま眠ってるかのような旦那、ただ呆然と裸足で雪の中を立ち尽くす妙子、いや、今は蔦吉姐さんでいいだろ。同じ頃に西尾様もお袋様もおえん姐さんも駈けつけた。みんな旦那のことが大好きだったんでさ。行かせたくなかったんでさ。

みんなで旦那を戸板に乗せて寺ん中へ運んだけど、旦那の顔は雪のように白くってね。冷たくなってさ、俺はさすがの旦那ももう終わりだと思ったんでさ。急いでお医者を呼んだけど、簡単に血止めをしたっきり、医者もただただうつむくばかりで・・・「心の臓を撃ち抜かれてるからもう無理だ」って。こっからの話は蔦吉姐さんに、旦那には死んでも話すなって言われてたけど、蔦吉姐さんはさ、着てるもの全部脱いで素っ裸になって、髷もほどいて旦那の床へ入り込んだんだよ。冷たくなった旦那を抱きしめて、「あたしがこの唐変木を呼び戻す。誰もこの部屋に入っちゃいけないよ」って。それから三日三晩、姐さんは飲まず食わずで旦那を温め続けたんだ。俺も西尾様もそれを信じて待った。お袋様は姐さんの覚悟を察してか、お屋敷に戻って寝ずに一心に祈り続けたそうだ。そしてとうとう、四日目の朝、襦袢一枚まとった姐さんが部屋から出てくるなり、「風来坊が地獄から帰ってきたよ」って言ってぶっ倒れちまったんだ。慌てて俺が旦那の床へ行くと、旦那の長いまつげがかすかに動いてるじゃありませんか。そしてささやくような声で「酒、人肌」って。こんな時でも酒かよって、俺、酒屋の親父のくせにあきれ返ったけど、あの時ほど嬉しいことはなかったね。八重にガキが出来た時とあの時の思いは俺の宝物でさ。姐さんはもし旦那が戻らなければ喉を突いて旦那の後を追うつもりだったって後から聞いたよ。

1年たってようやく床が取れた旦那は、梅が咲く頃に蔦吉姐さんと深川で所帯を持った。これからは「こんなもん振り回す時代じゃねえ」って侍も辞めて何と人力車の車夫になった。これならお袋に旨いもん食わせてやれるってね。旦那は姐さんを乗っけて深川をよく走ってたね。旦那、足が速いから韋駄天九郎なんて呼ばれてた。こんな都々逸、深川で流行ったのお覚えてますかい。「韋駄天九郎に過ぎたるものは、葵の御紋に蔦の花」ってね。葵の御紋の扇子が懐にあったから、心の臓から弾がそれて旦那が助かったってんで、御一新の後、しばらくは葵の扇子も深川界隈で流行りましたねえ。葵の御紋を見せびらかさず、懐に忍ばせてたから、旦那は助かったんだ、葵の扇子を見せるのはいきじゃないってんで、買ってもみんな懐にお守り代わりに入れてましたねえ。扇子屋がぼやいていたっけ。そういえば姐さんもあのお袋様とよく気があって、ホント予想外だったけど、あっすいません。ホントに幸せそうでしたよ。みんな。

旦那と思い出話してると長くなっていけねえや。斬九郎の旦那、これでお別れでさ。冥土でも蔦吉姐さんと仲良くやって下さいまし。酒は少しお控えになった方が・・・さよなら松平斬九郎様、南無八幡。

相生町の佐次

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2013.02.09 | | Comments(0) | Trackback(0) | 【時】時代劇の話

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